手足のない男の思い出

今話題のあの人の話題が目に入ると、どうしても思い出す光景がある。


もう、15年ほど前の、インド、コルカタ(カルカッタのほうが、今でもまだ通りがいいか)。インドに到着したばかりで、たしか3時間ほどしかない時差のせいか早起きしてしまい、コーランの一節だか何だかが、けたたましく鳴り響く通りを歩く。


一人の男が、台車に何か荷物を載せてやってくる。男は、牛糞にまみれた道端に、その荷物を置いて立ち去る。


残された荷物、と思われたそれは、男が見えなくなると、バタバタと動きだす。よく見ると、それは手足のない男である。


小汚いザルとともに残された、手足のない男性は、ザルを見つめながら、必死の形相で、背筋運動のように体を反らせる。いつまでも、バタバタと、それをやめない。



ここまでが、実際に見た光景。


あとの情報は、たぶん地球の歩き方か、その他のインド本か、何かで読んだ話。あるいは、ぼくが金持ちの日本人だからということで群がってきた子どもたちの誰かから聞いたのか。よく覚えていない。


夕方になると、台車の男は、手足のない男を回収にくる。


手足のない男の前に置かれたザルに入った、わずかばかりのお金は、ほとんどが台車の男のものになる。


手足のない男に、手足がない理由は、両親がそれを切り落としたから。物乞いとして、暮らしていけるように。それがカーストのせいだったか、先天性の障害のせいだったかは、忘れてしまった。


この話には、これ以上の、救いも、教訓もない。