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ひとつしかないものを売り買いすることについて

ひとつしかないものを買うのって、難しいじゃないですか。

たくさんあるもの、例えば量産品の鉛筆とかだったら、文房具屋さんに行けば置いてあって、ついてる値札の金額を払えば手に入る。でも、ひとつしかないものを売り買いするときには、買おうと思ったときにはまだ値札がついてないから、非常に困る。

ぼくが仕事でつくっている建築というものは、ほとんどの場合、それぞれ違う形をしているので、その部品も「ひとつしかないもの」が多い。じゃあ、その「ひとつしかないもの」の値段をどうやって決めているのかというと、いわゆる「相見積り(あいみつもり、略してあいみつ)」を取るわけです。うちならいくらで売りますよ、いやいやうちならいくらで、という会社を何社か集めて、その中で、一番安い値段を提示してくれたところから、その提示してくれた値段で買いましょう、と、基本的にはこういう仕組みです。

相見積りを取る業界は建設業に限らずいくらでもあるでしょうが、ふつうの消費者生活を送っている人には、こういう値段の決め方に馴染みのない人も多いのだろうと思います。しかし、「ひとつしかないもの」を買うときには、たまたまとても値段の高い会社*1に最初に出会ってしまう可能性も十分に考えられますから、「相見積り」を取ることは合理的です。ただ、問題は、こういったことは、学校等では教えてもらえないということです。


少し前、映画「テルマエ・ロマエ」の原作者ヤマザキマリさんが、原作使用料として100万円しかもらえなかったという件が話題になりました。
痛いニュース(ノ∀`) : 映画「テルマエ・ロマエ」、収入58億円の大ヒット!→原作者は100万円しかもらえず - ライブドアブログ

ヤマザキさんの作品というのはまさにオンリーワン、ヤマザキさんにしか作れない「ひとつしかないもの」であるわけですが、その映画原作としての使用権利をいくらで売るか、というのは、上で見た「ひとつしかないもの」を買う場合のちょうど逆パターンになります。

たまたまとても値段の安い会社に売ってしまうリスクを回避するためには、権利を買いたいという会社が複数出てくるのを待って、競合させるべきだった。オークションと言った方がわかりやすいでしょうか。

ただ、いつまでたっても権利を買いたいという二社目、三社目の申し出がなく、その間に作品の鮮度が落ちてしまって、最初の会社も申し出を取り下げるという可能性も当然あるわけですから、可能性とリスクを天秤にかけつつ判断するというのが一応の正解だと思います。

この件では、ヤマザキさんはこうした可能性とリスクを十分に考えるチャンスすら与えられずじまいだったということですから気の毒ではありますが、すぐれた作品が安い値段で取引されてしまうというのはクリエーターの地位にも関わることですから、上で書いたような「ひとつしかないもの」を売り買いする仕組みを知り、利用すること、あるいは「ひとつしかないもの」を売り買いすることに慣れた人のアドバイスが必要だったのではないかと思います。

*1:おそらく、その「ひとつしかないもの」を扱うのは本来得意ではないのでしょう