住宅と一緒に買わされるものについて

持ち家か賃貸かという話は要するに、住宅そのものがもたらしてくれる価値に対して、その時その時の相場における住宅価格、家賃が高いか安いかということだと思うので、建築屋の私が語ることは、あまりありません。個人的には、今の住宅価格は高いなあと思ってるので、家は買いませんが。

専門外の話として、個人の資産を住宅という形で持つのか、あるいは貨幣で持つのか、はたまた何か全く別の形で持つのかというのは、一つの指標として「流動性」ってやつをどこまで志向するか、ということであって、どうするのかはまあ、好きなようにすればいいんじゃないかと。

経済学における流動性(英: Market Liquidity)は、交易上の商品などの資産が、いかに容易に交換できるかを示す性質を言う。貨幣経済が主流となった今日では、貨幣そのものをさす場合もある。
流動性 (経済学) - Wikipedia

なお、ここんとこデフレだの円高だの言ってんのは、日本人の流動性への需要が高まってるからですよね。何に使うかわからないけど、お金を手元に置いておきたいと。もうあと10年生きるかどうかわからない爺さん婆さんまでが「将来が心配」とか言って。

新築住宅を購入する理由として、「私に、私だけにぴったりのおうちをつくること」が仮にあるんだとしたら、これはまさに、他の人にとっては何の価値もないという、非流動性そのものに価値を見出しているのでありますから、上のような話は全然関係ないわけで、そこに湯水のようにお金を注ぎ込む人がいたとしても生暖かく見守るしかないわけです。周りに迷惑をかけない範囲で、の話ですが。

これからどうなるかなんてのは、相場師じゃないからわかりませんが、「私だけのおうち」であるにしろないにしろ、住宅というのは非常に高額な商品であるがゆえに「非流動性」のかたまりみたいなものであり、社会的に将来どうなんのかわからない時期に「非流動性」ってのは、高くつくんじゃないかと。これが、家を買わない理由のひとつ。


別の話。他の人と違う家に住みたいというわけでもないのに家を買う人の言い分としてネットでよく見かけるのが、賃貸住宅の品質が低いというものです。もしそうなんだとしたら、住宅を供給する側のディベロッパーなり大家さんなりが、大いに反省せねばなりません。ここに高い品質の住宅を賃貸市場に投入すれば、大きな需要に支えられた安定した資産運用が可能だからです。空室率の低い・・・家賃の高い。

ふむ・・・そんな需要があるなら、プロが見逃すはずはないよね。さては、あなたが住みたいなあと思うような住宅は、たまに賃貸で見かけると、すごく家賃が高いのではありませんかね。月々こんなに払うくらいなら、買った方がましと思えるほど。誰が借りるんだこんな家!法人か?外資か?ありえねえ。そこへくると、持ち家は安くてお得ですね!

で、ちょっと待てですよ。冷静な消費者たる我々が、そんな安易な思考に走って良いものか。相手はプロだと言ったでしょう。個人などという、たかだか数億しか支払い能力のない客に、「お得」な価格を提示する必要がどこにありましょうや。ふつうは逆です。法人か?外資か?と思ったその価格のほうが、月々に支払う「正当な価格」に近いんじゃないのか。そう考えるのが賢い消費者というものでしょう。

じゃあ、なぜ持ち家の価格は、個人にも手が届くような価格に抑えられているのでしょうか。ひとつには、政府の住宅政策というのもあるでしょう。それだけだったらどれほど良いか。しかし、きっとそれだけではない。

先日、賃貸住宅である我が家の湯沸かし器が壊れました。お風呂のお湯が張れなくなってしまいましたので、その日はたまたま日曜だったので、スーパー銭湯へ行き楽しく過ごしました。次の日には修理が来て、運良く部品が全部そろっていたのでその日に作業は完了し、お風呂に入ることができました。修理代は、もちろんタダです。

湯沸かし器の故障は、リスクです。住宅で困ったことが起きる、すなわちリスクが顕在化したときには、生活に支障が出る。そのときに経済的な負担までが重ならなくてよかったねぇ、とその時思ったものです。住宅にかかるリスクに湯沸かし器の故障以外にどのようなものがあるか、東日本大震災から1年ちょっとしか経っていない今、そこに多くの言葉を費やす必要はないでしょう。

確かなことは、持ち家は、売り手から見れば、住宅そのものと同時に、リスクも売っているということです。売ってしまえば、その先、その家の湯沸かし器がどうなろうと心配する必要がなくなる。ところが、リスクの値段というのはマイナスだから、リスクを売るときにはお金をあげなきゃいけない。もし、住宅価格を「安い」と感じるのであれば、そこに含まれているリスクの価格(負の値)がものすごく大きいのかもしれません。それを金額で表すのは難しいことでしょうが、税制の優遇などを横に置いておけば、法人か!外資か!と思った「高いなあ」という感覚から、それと同グレードの住宅の値段を見たときに感じた「安いなあ」という感覚を引いた差。そう考えてよいのかもしれません。

あんまりこんなことを言っちゃあいかんのかもしれませんが、震災で住宅に被害が出た方に税金からなにがしかのお金を差し上げること、それは、誰かが住宅と一緒に買ったリスクを引き取っているという意味が含まれていることに、注意を向ける必要があると思います。少なくとも、「これが最後だよ」と言って渡さないと、「リスクを買っている」ということに気づく機会を失うことになってしまう。また、地震で被害がないように、と住宅にお金と知力を投入してきた人たちの不公平感が・・・とかまあどうでもいいや。

リスクにしても非流動性にしても、住宅を買う時に知らず知らずのうちに一緒に買わされているもののことを考えると、やっぱり持ち家って高いなぁ、と思うわけです。