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リーダーは先頭に立つ人ではなくケツをもつ人だ

雑感

リーダーシップを発揮した経験はありますか。

確か、うちの会社のエントリーシートにも似たような質問があったと思います。職種柄必要なものだと思うので、質問自体に違和感は特にありません。

しかしながら、このリーダーシップという言葉。リーダーというのはleadする人、すなわち先頭に立って集団を引っ張っていく人だから、リーダーシップとはそういうの人の精神という意味になろうかと思います。だから、「リーダーシップを発揮した経験はありますか」と尋ねられた就職希望の学生さんたちは、先頭に立って集団を引っ張った経験を、無理矢理にでも短い人生経験の中からひねり出して話す。これは問答としては正しい。ちなみに、ヨーソロー、ヨーソロー、お前が船を、船をぉぉぅ出せぇい。これはキャプテン・オブ・ザ・シップなので間違いです。

一方、ここ十年ほど社会人をやってきた中で思い返してみると、リーダー、たとえば「長」と付くような役職の人間が、「先頭」に立っているというイメージがほとんどない。むしろ、先頭を切って走っていくのは下っ端の方であって、リーダーは後ろにデーン!と構えているのがサマになるような気がします。つまり、「リーダーシップを発揮した経験はありますか」と尋ねている側の社会人の認識では、リーダーの立ち位置を後ろ側に置いている可能性が高く、それによって学生さんとの問答にすれ違いが生じているのではないか、と。

ある仕事(かっこいいのでプロジェクトと呼びましょうか)に必要な業務量が一人分を超えるとき、わたしたちは複数の人数でそれに当たることになります。しかし、業務自体は複数人に分けることができても、プロジェクト全体の責任を分けることは難しい。分けられたそれぞれの業務をこなすことに責任を持つのは当然ですが、例えばプロジェクト全体の業務量の十分の一を任された人がしくじったせいで、プロジェクトそのものが立ち行かなくなってしまった場合、クライアントに「いや、十分の一だけこいつが悪いんです」という説明をしてもどうにもなりません。頼まれた仕事を一人でやるか複数でやるかはこちらの都合であってクライアントから見れば知ったこっちゃない、ということを考えれば、プロジェクト全体の責任者、窓口になる人は一人に絞らなければならない。現実のビジネスシーンでは、この責任を取る人が、プロジェクトの「リーダー」ということになるんだと思います。

一般的な言い方なのかわかりませんが、このようなリーダーの役割を指して、「ケツをもつ」という言い方をすることが、私のまわりではよくあります。ネットで調べたところでは確たる起源は見出せませんでしたが、もともと暴走族用語で、一番後ろを走ることだという説が出てきました。「他人の尻拭い」との混同もあるのでしょうが、私の属する業界にはヤンキー系の言葉が入ってきやすいだけに、暴走族説にはなかなかの説得力があります。戦国時代には、後退する部隊の中で最後尾を担当する部隊を指して「殿(しんがり)」と呼んでいましたが、しんがりが命を落とす危険のない平和な江戸時代に入り、リーダーはその立ち位置から「殿(との)」と呼ばれるようになったのだ!などと嘘なんだかホントなんだかわからないような新説までは唱えないものの、日本のビジネスシーンにおけるリーダーとは、英語のそれとは違って後ろに控えているものであることの証左なような気がしないでもありません。

じゃあ、勘違いが起こらないようにはじめから「ケツをもった経験はありますか?」と聞けばよいではないかという意見もありましょうが、これではあるスジの方たちを濃厚に求めている会社と思われても仕方がないので、これからもリーダーシップはリーダーシップとしたほうがいいでしょう。

「ケツをもつ」ことは大変なことですが、「ケツをもつ」ことの大変さは実際にケツを持たないとなかなか理解できることではありません。ケツをもったことのない人は、組織の中に入ったときにケツをもつ人の心配や苦労を想像しながら自分の仕事をこなすという、ケツをもったことのある人には当然のことが難しい。新入社員に「ケツをもつ」経験を持たせることは何らかの損失を被るリスクを負うことから簡単にできることではありませんが、「ケツをもつ」経験は別にビジネス上である必要はなく、ことの大小を問わなければ学生生活を含めた人生いたるところにチャンスはあるのだと思います。だから、「リーダーシップを発揮した経験はありますか」という質問は、今後も至る所で繰り返されるでしょうが、「すごく大きなテニスサークルの副部長をしていました」では、ケツをもったことがあるかどうかは判断できないのです。


以下のエントリを考えるきっかけにさせてもらいました。
なんで全員にリーダーシップを求めるの? - Chikirinの日記