マンション選びが美人投票になっている件について

AKB48の話じゃありません。

ケインズの美人投票とか、美人コンテストとかいった言葉をご存じでしょうか。

ケインズは、玄人筋の行う投資は「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」に見立てることができるとし、この場合「投票者は自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票するようになる」とした。
美人投票 - Wikipedia

毎回毎回、投票を重ねていくにしたがって、「玄人筋」は自分の好みよりも、世間の平均的な好みを予想して投票することになるでしょう。平均の好みを予想する人の平均の予想の平均の予想の平均の・・・という風に、予想に予想を重ねた投票をするはずであって、結果として自分の好みと全然違う人に投票する可能性もある。こうなると、美人とは何かと問われても、美人とは世の中で美人と言われている人のことだとしか言えなくなってしまいます。

もちろん、ケインズが言いたかったのは美人の成立についてではありません。株式市場にしろ何にしろ、市場というものが投機目的の玄人筋に支配されるようになると、需要と供給のバランスによる最適価格、いわゆる「神の見えざる手」によって見出されるところの、その物本来が持つ価値に見合った価格からは、どんどん離れていってしまうことを指摘しているわけです。

翻って、不動産市場、とりわけマンション市場というものを眺めてみましょう。マンション市場には、自分の住まいとしてマンションを買おうという人や、マンションを供給する不動産業者のほかに、投機目的でマンションを買おうと言う人もいます。これは、先ほどの美人投票で言えば、賞金を稼ごうと思っている人と、その美人と実際に結婚したいと思っている人が同じ土俵で戦っているようなものです。

さらには、自分の住まいとしてマンションを購入する人の中にも、転勤などで住めなくなったときに賃貸する場合の価格や、転売する際の価格を考慮しながら購入する人も増えてきているようです。こうした傾向は、マンション市場の美人投票的側面をより助長するものと言えるでしょう。

先のバブルの主な舞台となった不動産市場でありますから、価格が現実の価値から乖離するという危険性については、改めて指摘するまでもないことだとは思います。むしろ、私が危惧しているのは、新築マンション市場における供給者であるデベロッパーという存在が玄人筋中の玄人筋であり、玄人筋であるデベロッパーは、彼らにとっての事業リスクである売れ残りを避けるため、世の中に平均の好みを予想する人の平均の予想の平均の予想の平均の・・・という予想のもと、マンションのモデルを決め、供給していることです。一時に大量のマンションが供給された場合、デベロッパーが平均の予想の平均の・・・と考えるモデルはほぼ同じものになるはずであり、それ以外のモデルは一切市場に供給されないということになります。

ここで問題となるのが、美人投票におけるブス専の存在です。美人投票であれば、自覚的ブス専については自分好みのブスではなく、予想される平均的美人に投票すればいいだけの話ですが、結婚相手探しとなればそうではありません。幸い、世の中にはブスが安定的に供給されているので*1ブス専が表面的に問題になることはありませんが、マンション市場においては、デベロッパーが平均的美人しか供給しない状況があるため、ブス専は自分好みのブスに巡り会えないことになります。

ただし、人間というのは適応能力に優れた生物であり、住まいという、人間の生活を入れる箱が多少自分の生活に合わなくとも、何とか時間をかけて順応させることができるので、この問題が明るみになる可能性はそれほど大きくありません。

それだけに、多くの人が自分がマンションブス専であると気づかずに生活している人というのは多いと思います。自分がブス専であることに気づくためには、他人から「お前、ブス専だろ」と言ってもらうことが有効だとは思いますが、こういう中学時代の友人的なアドバイスをしてくれるような人は少ないのが現状です。

たとえば優秀な建築家は、こうしたブス専を見抜く能力に長けていますが、彼らは優秀なブス専判定士であるとともに、ブス専判定ではなく建築の設計を生業としている実業家でもありますので、もしあなたがブス専ではなく平均的美人好みであった場合に、それは告げられない可能性は否定できません。今後、本格的に、ブス専判定士を生業とする人が出てくるかどうか、注目されるところです。

一方で、供給されるマンションが平均的美人ばかりになってしまう問題は、資本主義の宿命と戦わねばならない部分もあり、簡単に答えが見いだせないところであります。近年、生物多様性の維持が叫ばれているのと同様、マンションも多様性を失えば、人々の志向が一変した際に全滅の憂き目を見る可能性があることから、中古市場まで見据えたリスクを自覚して、回避していけるか。マンション多様性の確保が、課題となってくるのではないかと思います。


*1:失礼。でも、この喩えをはじめたのは私じゃなくケインズなんだ。