建設業全体で見るとメンバーシップ型とジョブ型の二層構造である件

さて、前回のエントリで、ゼネコンがザ・メンバーシップ型雇用であることについて、そして日本の企業のあり方自体を規定してきた可能性について考えました。すなわち、メンバーシップ型雇用とは大工のような徒弟制度の発展形であり、それがそのまま規模を大きくすることでゼネコンが成立し、さらにそれを模倣するような形で、日本の企業の雇用形態が固まっていったのではないかと。

しかし、ここで無視できないのは、多重下請構造の存在です。建設業では、多重下請は違法でも脱法でもなく、建設業法第2条で公然と謳われたものです。建設業法はその名の通り、建設業にしか適用されません。受注状況がめまぐるしく変わる建設業において、ゼネコンがメンバーシップ型雇用を維持できるのは、「特例的に」多重下請構造が認められているからであり、一方で下請となる専門業者の多くはメンバーシップ型ではなく、ジョブ型雇用であり、ジョブを求めて複数のゼネコンと取引しているのが普通です。つまり、ゼネコンだけを見れば典型的なメンバーシップ型雇用ですが、一方、建設業全体を見るとメンバーシップ型とジョブ型が層を成す、特殊な2層の産業構造を持つといえるのです。

なぜ、建設業においてこのような、チートと言える様な産業構造が許されているのかというと、一つには先述の通り受注状況が変化するという特徴が勘案されたという面もあるとは思いますが、最も大きいのは、不況のときに雇用の受け皿となる使命を負わされている、否、いたからであり、国は財政政策として自ら発注者となって建設工事を起こすつもりであったからです。国はただ漠然とそのような使命を期待していたわけではなく、建設業法のほか、労働安全衛生法など、システムの整備を行っており、たとえば、現場の労災保険はゼネコンのお金で入りますし、足場や手すりなどの安全設備もゼネコンの社員である統括安全衛生責任者の責任で設置しなければなりません。つまり、急に襲ってくる不況時に、労働者が建設業になだれ込んだとしても、それが十分であるかという議論はさておき、労働者保護が図られるように予めシステムを用意していたわけです。

しかし、このような準備をしていたにも拘らず、実際の不況の時には、マスコミのネガキャンなどにより十分な機能を果たすことはなかったのはご存知の通りです。公共工事という雇用創出手段を奪われた国もつらいですが、ゼネコンも国に裏切られた形になるわけです。とはいえ、もともと約束をしていたわけではないので文句を言うわけにもいかず、何とか自力で不況を乗り切るべく努力した結果、機械化や部材の工場生産化などが進み、かつて人・日単位で量を把握していたような性質の仕事の割合は、徐々に減っています。この傾向は、「職人さん」の高齢化が進むにしたがってますます大きくなっていくものと考えられ、もはや雇用の受け皿としての役割を期待されても十分なはたらきをするかどうかわからない状態になっていますが、その点でゼネコンに責任を問うのは筋違いというものでしょう。


さて、問題は建設業のあとに続いてメンバーシップ型雇用システムを採用してしまった他産業です。そもそもお手本であったはずのゼネコンは、上に述べたような極めて特殊な産業構造の上に成り立っているわけですから、真似してもうまくいくはずがありません。経済が右肩上がりであれば問題は表面には出てこないのですが、仕事が減って解雇局面になると、ジョブ型雇用の下請という「バッファ」のない産業では、メンバーシップ型雇用が直撃を受けるわけです。恐ろしいのは、「これはまずい」と気がついたのが、日本で近代的企業がメンバーシップ型を採用した明治から見て100年も後、バブル崩壊後であることです。長い間かけて、さまざまな社会保障はメンバーシップ型雇用を前提に作られてしまっており、今さら変えることはできそうもありません。

そこで、正社員のメンバーシップはそのまま、経営者の「これはまずい」の声に押されて、規制緩和の錦の御旗の下、ジョブ型雇用の下請構造を持つことが建設業以外にも認められるようになった。つまり、最初に中途半端に真似してしまったメンバーシップ型雇用を、完全に建設業の真似、すなわちメンバーシップ型とジョブ型の2層構造へと移行させようとした。これが、派遣労働者やフリーターといった非正規労働者の増加に対する私の解釈です。

しかし、上で見てきたように、建設業は特殊な産業構造をとるために、雇用の受け皿となることや、労働者保護の仕組みを守ることなど、さまざまな代償を払っていました。しかし、こうした代償を払っていない「規制緩和」には、法的に不備な面が多々あるように感じます。不安定な「受注産業」という特徴をさらにプラスしたIT産業は、その中でも厳しいクソ労働環境となることは必然といえます。

国が雇用を生み出すことについては、そう簡単にいいアイディアが浮かぶとは思えませんが、非正規労働者のいるすべての産業に税金を注ぎ込むことが不可能であるのは明らかです。今できることは、少なくとも建設業や労働安全衛生法で建設業に求められているような労働者保護政策を、建設業以外の非正規労働者の雇用者にも求めることでしょう。でなければ、法のバランスが取れません。

こうして見ていく中で、他産業が建設業の轍を踏んでいくものだとすれば、他産業においても建設業と同じく、ジョブ型雇用システム層において、技能の求められる仕事の割合が増すのではないでしょうか。専門的技能の身に付かない、応用性の低い単純作業について、ジョブ型雇用システムで雇用を行うことについては、慎重であるべきでしょう。