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雇用システムは「混ぜるな危険」

濱口桂一郎「新しい労働社会―雇用システムの再構築へ」を読みました。

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)

本書の構成は非常にシンプルで、序章の冒頭で「日本型雇用システム」の本質を提示し、その後、現代日本で生じている諸問題が、全てこのシステムの持つ性質によってもたらされるものであることを次々に明らかにしていきます。そして、それぞれの問題への答えとして、「日本型雇用システム」をどのように変えていくかを考えていくかたちになっています。

「日本型雇用システム」おける雇用とは、職務ではなくメンバーシップであると著者は説きます。これは、非常に優れた見方であると私は感じましたが、著者のブログによると

拙著の序章で示している認識枠組みは、労働研究者の中ではごく普通に共有されているものの一種であって、たかが10年前に池田氏が博士論文を書いて始めて提示したようなものではありません。
池田信夫氏の「書評」: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

だそうです。*1もちろん、著者の示したいところは、これからこのシステムをどう変えていくか?の部分なのでしょうが、私のように、現状を的確に示した「序章」により大きな価値を見いだす人は多いのではないでしょうか。少なくとも、労働問題の門外漢から見れば、これだけの内容が700円で手に入る新書に詰め込まれていることは非常に喜ばしいことです。

さて、あえて門外漢ながら本書に教えてもらった材料を元に、これから「日本型雇用システム」をどのように変えていくかを考えてみたいと思います。興味深いのは、「日本型雇用システム」を欧米、特にEUのそれと対比させていきながらも、どちらが優れているのかについて本書は断言を避けている点であり、これは、かなり意識的になされていることだと思われます。当然、我々読者はどちらが優れているのかを考えながら読むわけですが、メンバーシップに基づく雇用システム自体は、職務に基づく欧米のそれと比べてそう劣るものではない、という私の所感は、おそらく著者の考えとは逆なのでしょう。

本書の内容をおおざっぱにいうと、現在日本で生じているさまざまな労働問題の主な原因は、メンバーシップ雇用システムの中に、部分的に職務雇用システムが混じってしまっている「混ぜるな危険」状態であるということだと思います。したがって、混ざりけのない雇用システム、すなわち純粋な職務雇用システムもしくはメンバーシップ雇用システムのどちらかを構築すれば、労働諸問題は解決しそうです。しかし、後者は難しいというより社会主義国家そのものであることを考えると、著者が、漸進的にと断りながらも、前者を志向するのは、資本主義の枠組みの中では合理的なことなのかもしれません。

しかし、私は評論家ではなく一正社員ですので、一度メンバーになってしまえば、社内教育も、適性に応じた仕事も、生活給としての賃金も保証される現在の日本の雇用システムを否定する気には到底なれません。現にメンバーシップ雇用システムが存在し、しかもメンバー構成員たる正社員がその恩恵を十分感じている中で著者の主張するような政策を実施することは、企業別労働組合を中心に激しい抵抗が予想されます。もし、これへの対策が、「気づかれないように、こっそり、ゆっくりやる」であるのであれば、この本は出版しないほうがよかったんじゃないかな。みんな読んで気づいちゃうし。

根本的な解決にはならないのかもしれないけれど、より多くの人がより厚い恩恵を受けられるようなメンバーシップを作り上げ、メンバーシップから外れてしまった人には国が手を差し伸べるという従来のシステムを、より「漏れ」のないように維持していくことが最も現実的だと思います。もっとも、今が持ちこたえていくのに一番つらい時期であることは承知の上ですが。

わたしの考える「これから」についてはこんな感じになりますが、現在置かれている個々人の立場によって「これから」に対する答えはさまざまだろうと思います。しかしながら、というよりも、だからこそ、「ここまで」を正確に描いた本書の序章には普遍的な価値があるように思います。

*1:池田?誰?