プロは機能に価値を宿す

見える場所に価値が宿る - レジデント初期研修用資料

建築途中の家を見ていると、プロの大工さんの「仕事」というのは時々いい加減で、断熱材なんかは無理矢理押し込んでる印象。日記を書いていたその人の仕事は丁寧で、たとえ目に見えないところでも、細かいところまできっちり作り込んでいた。

とあるマンションの内覧会でお客さん(その部屋の入居者)に、天井裏で見えない部分の石膏ボードの貼り方について文句を言われたことを思い出した。「お前も見てみろ!」と言われて、お客さん持参の脚立に乗って天井点検口に首を突っ込んで見たが、綺麗とまでは言わないまでも、まあ普通。脚立から降りての一声、私の「どこがですか?」とお客さんの「汚いだろ!」のセリフが重なってしまい、余計に怒らせてしまった。

もちろん、天井裏であっても隣の住戸との間の壁など、遮音・防火上、上の階の床まできっちり貼っておかなければいけない壁はあるが、そのお客さんの気にしていた壁はそうではなかったので、その旨をとくとくと説明したのだが、納得いただくまでには相当の苦労を要した。しかし、天井裏でボードの貼り直しをするということは、天井の下地を傷めるなど、決してお客さんにメリットはないと判断したので、苦労してでも納得してもらうほかなかったのだ。

断熱材や石膏ボードなどは、現場で切断して貼り付けるので、割り付け方や貼り方で、作業手間に大きな違いが出るし、また廃材となる切れ端の量にも違いが出る。材工(材料と貼り付け手間)一式で請け負っている職人さんにとっては、材料も自分の手間も利益に関わる大きな問題だ。だから「わかっている」職人さんは、切り手間貼り手間の少ない方法を採り、我々現場監督に「こういう貼り方で貼っていいか?」と聞いてくる。

現場監督はそれに対してOKを出すケースが多いのだが、時にNGと言わざるを得ない場合がある。例えば石膏ボードであれば、二枚重ねのボードの継ぎ目が同じ位置にくるなどした場合、そこから割れてしまう可能性が高くなる。こちらとしても、工程を進めることは大事だが、品質に妥協をしてしまえば、後々クレームとなって返ってくるので譲れないのだ。

一方で、冒頭のお客さんのように、見えない箇所の見栄に必要以上に気を遣ってほしいというような指示を職人さんに出してしまった場合、その職人さんはそれ以降、私の言うことなど聞いてくれないかもしれない。「あの監督はわかっていない」というわけである。

プロは、一つの部材、一つの工程が果たさなければいけない機能を理解していることが必要なのである。例えば内装壁用の石膏ボードには、前述の遮音、防火の他、遮熱、耐衝撃、気密などの機能が要求されるが、見栄えを整える、という機能についてはその上を覆う壁紙、あるいはペンキなどに譲り、それらを支えることに徹することになる。まして、天井裏の石膏ボードに見栄えを整える機能は求められていない。それを理解した上で、施工方法を決めなければならないのだ。

しかし、目に見えない所であれば、汚くていいという訳ではない。例えば、大橋ジャンクションの見学会の写真で鉄筋の配筋の美しさに感動された方も多いと思うが、この鉄筋は後々コンクリートに覆われて見えなくなってしまう。しかし、それでも美しく等間隔に配筋するのはなぜか。コンクリート中にあって引張力を負担するという鉄筋の機能を果たすためには、何mmの間に何本鉄筋が入っていなければならないという最低本数が指定される。その要求事項を満たす一方で、使用する鉄筋の本数を少なくしたい。本数が多くなれば、材料費はかさみ、運ぶ手間、並べる手間、結束(固定)する手間が余計にかかるのだ。あまりに鉄筋間隔が狭ければ、コンクリートが間に入っていかないという問題も起こる。要求される性能に加え、経済性を追求した結果生まれる美しさなのである。*1

余談になるが、コンクリート打ち放しの壁は、上記の石膏ボードとペンキや壁紙に期待される機能、両方を持ち合わせていなければならないのに加え、建物を支える、構造材としての機能までもが要求されている。一つのものにあまりに多様な機能を詰め込みすぎることは、かえって効率を落としてしまう。打ち放しコンクリートについても同様なのだが、これを解説すると長くなるので別のエントリーに譲りたいと思う。しかし、打ち放しコンクリートを「機能美」のように表現する文章に出会ったときには、少し疑ってみることをお勧めしたいのである。

*1:このように、機能に分解する手法は、[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0:title=VE(バリュー・エンジニアリング)]で特に重視されているので、興味のある方は調べて見てください。私も先日、VEリーダーの資格講習を受けて感心しました。