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情熱のためなら死んでもいい大陸

情熱大陸を見た。

宮内寿和という大工の棟梁の話。「伝統的な工法や技術を応用しながら、あくまで現代人のライフスタイルや環境に合わせた家造りにこだわ」っているらしい。「伝統」にこだわって筋交いをなくしたり、地元の細い材で梁を造ったり、あまつさえ石場建て*1であったりするのには、正直同調しかねたが、施主の希望であると言うし、材を多くすることで強度をもたせているのだと本人が言っているのだから、それはそれでしようがないのかもしれないな、などと思いながら見ていた。しかし、終わり近くになって紹介されたエピソードは、どうしても受け入れがたい。

2階での作業中、彼の弟子が梁から落ちかけたのである。

危ういところで墜落は免れたのだが、棟梁である宮内はこの弟子をあろうことか怒鳴りつけた。「お前は人が死んだ家に住みたいと思うか?新築の家にケチがつくんやぞ(大意)」と。

落ちそうなったとき、2階で床がまだ貼れていないところで作業をしたこと、安全帯を掛ける場所もなければ、ネットも張っていなかったことは、映像を検証すれば明らかになることである。事業主である宮内寿和の労働安全衛生法*2違反であると言わざるえない。

もちろん、この番組を見て労働基準監督署が乗り込んだとしても、「あれは番組を盛り上げるための演出だった」と言えば、罪に問われることはないだろう。しかし、これを何の疑問もなく放送してしまう無知、そしてなによりも、弟子の命と自分の事業を秤に掛けて事業を取るような行為を、情熱のあらわれであるとする倫理観には、大きな疑問を抱かざるをえない。*3

こうした小規模の建設現場における安全水準の低さというのは、現代の日本が抱えている問題のひとつであると私は思っている。この増田は、「人が死なない限りお役人ってのは動かない」と言っているけど、ここでは人が死んでいるのにお役人は動いていないように見えるのだ。しかし、小規模現場で働く当人たち、労働者側も雇用者側もが、その問題を自覚していないという事実がはからずもこの番組で浮き彫りになったと言える。

しかし、その浮き彫りになった姿を、ドキュメンタリー製作という仕事をしている人間*4が、ただの一人も気にとめたかったということは、宮内という人物以上に残念なことである。

*1:束石の上に柱、束を載せるだけの工法。ズレ止めのほぞはあるが引き抜く方向の力に全く抵抗できない。

*2:事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。(労働安全衛生法第21条第2項)

*3:一度疑問を抱いてしまうと、さきほどはしようがないと飲み込んだこと、施主は本当に筋交いがなく、柱梁接合部の剛性もなく、さらに柱や束が浮き上がってしまう家の地震に対する弱さを本当に理解しているのだろうか、ということも気になってきてしまう。

*4:この番組の製作は、TBSではなく毎日放送のようだ。